夢見月
明け方 雲に浮かんだ
色を失う月の裏側
どこまでも続く空の
隅で僕は夢を見ていた
もうすぐ僕はここから
すっと 消えていなくなるのに
この街はいつもと変わらない
歩幅で歩くのだろう
さよならもろくに
言えもしないままで
いない人はいませんか
なんて わがままな僕だ
放ったらかしの心に
打ち付ける冷たい雨水や
儚く舞った蛍の灯火を
揺らせ 夏の陽炎
葉っぱが頬を赤く染め
母の元を旅立ってゆき
僕はまだ眠っていたいのに
桜の花が咲いた
さよならもろくに
言えもしないままで
最後の電車が
僕を迎えに来た
窓をくぐるとき
何処からか声がする
「忘れ物はありませんか」
あるけどないよ
だから さよなら
「ばいばい。」
夕暮 海に沈んだ
紅は月に色を託した
何処までも続く空の
隅で僕は夢を見ていた